<登場人物・キャスト>
語り手:奈良岡朋子/おしん:田中裕子/みの:小林千登勢/加代:東てる美/清太郎:石田太郎/りき:渡辺富美子/庄治:吉岡祐一/とら:渡辺えり子/大工:上原秀雄/雄:山野礼央/奉公人:中村綾子・斉藤高広/ふじ:泉ピン子

<あらすじ>
酒田の米問屋、加賀屋のくにが亡くなった。8つから16まで加賀屋に奉公したおしんを孫娘の加代と同じように慈しみ、女としてのたしなみをしつけてくれた恩人であった。
くにの葬儀を手伝いせめて初七日までくにのそばにいたいと加賀屋で世話になることにしたおしんに、加代が思いがけない話を持ち出した。酒田で商売をしないかというのである。

「ここで商売しないか」と見せられた建物を後にして、また加賀屋へ戻るおしんと加代。

奥の部屋で清太郎とみのに相談をする。
「何バカなごど言ってるんだ!」
「あの店あのままほっといたって仕方がねえだろう? 他人に貸すんだったら、おしんに何か商売でもさせてやった方が」
「あの店が惜しくて、言ってるんではねえんだ。おしんは田倉(たのくら)っていう家の嫁になったおなごだ」
「おしんはな、もう佐賀の家なんかとっくに飛び出してきてるんだ」
「お加代様……」
ついに本当のことを明かしてしまった加代におしんは驚く。
「隠しといたって仕方がねえだろう? おしんがほんとに商売やりたいっていうんだったら、何もかも話さねえと」

「おしん。佐賀の家出たって、旦那さんも一緒にだか?」
みのが驚いておしんの横へ来て問う。
「竜三さんは、おふくろ様のそばさへばりついてんだと」
加代が代わりに答えた。
「おしん?」
「……私が、いけないんです。お姑(しゅうとめ)さんの辛抱できなくて」
「逃げ出したんだが?」
また加代が代わりに説明する。
「ちっせえ時から、人の2倍も3倍もの苦労を辛抱してきたおしんが、そげなことするなんてよくよくのことだ」
「んだば、今どごさ?」
「春から里に帰っています」
「んだろうのう。どうも佐賀から来たのではおかしいと思ってたんだ」
清太郎が得心したようにそう言った。

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「山形だばおっ母さんおられるし、心配はねえんだろうがなぁ」
「それが、もう兄さん夫婦の代になってるもんで、色々とあって。おしんはあっちこっちに日銭稼ぎに手伝って歩いてんだと」
「うちの田んぼや畑は、兄と母で手が足りてるもんですから……」
「おしんと雄坊が食べる物は自分で稼がねえと、厄介者扱いされんだと」
「それはねえだろう? 里のためにおしんはどれだけのごどしてきたか、兄さんだっても知らねえはずねえだろうにのう。うちで奉公して働いてたのも、おしんはそっくり里さ渡してたんでねんだが」
「それはいいんです。私が父にしてやったことですから」
「みんな自分のことしか考えねえんだがらのう。それなら里さいでも、おしんの立場がねえでねえが……」
みのの発言に加代が説明するということを何度か繰り返し、ようやくみのも事情が飲み込めたようである。

加代は清太郎に訴える。
「だから、オレもおしんに商売させる気にもなったんだ」
「んだなぁ……それでおしんが救われるってんだったら。ただ、一口に商売っつったってそげ簡単なもんではねえがらな」
「いいんでねえが。そりゃ、うち手伝ってもらったってええ。んだどもそれではただの奉公人だ。オレ、おしんには独り歩きできるようにしてやりてえんだ。おばあちゃまは何にも知らねえで死んでしまったども、おしんのこと知ってたらきっとオレと同じごとしてやったに違いねえ。おばあちゃん、いつもおしんに言ってた。『おなごだって、一人で歩けるようにならねばならねえぞ』って。それが、おしんをかわいがってたおばあちゃんの供養だ。そうだろ?」

「加代の思う通りにしたらいい。おしんが加代にやってくれたこと考えたら、商売の元手出すぐれえ安いもんだ」
「おしん! よかったのう!」
加代は喜びに満ちた顔でおしんを見る。おしんも笑顔で清太郎に頭を下げた。
「何が、よかったんだ? 例え俺達が反対しても、やると決めたことはやり通すつもりでねえが?」
清太郎のおどけた言い方に皆笑った。

おしんは古びた店の中で考え込むような顔をしている。雄はその辺りにあった桶を横にして転がして遊んでいる。そこへ加代が入ってきた。
「やっぱりここだったが!」
「すみません。すぐ帰るつもりだったもんで、誰にも言わないで来てしまって」
「いいんだよ。うちにいる間は雄坊とゆっくりしてだらええ。店が始まったら、また走り続けねばならねえんだがらな」
「でも、ほんとに私にできるんだろうか……」
「おしんらしくねえぞ! 一か八かやってみれ。失敗するの怖がってたら何にもできやしねえ」
「でも、加賀屋さんに迷惑かけるようなことになったら」
「こげな店やるくれえの資本は、知れてるんだ。例え返してもらわなくたって、それぐれえのことでつぶれる加賀屋ではねえ。何か、考えでることあるんだな? おしん?」
「……飯屋は、どうかと思って。酒田の港は庄内の米を運び出したり、方々から色んな物を運び込んだりする船が出入りしてます。だから船員さんや船の仕事している人達が多い。そういう人達相手に、飯屋やってみるのはどうかと思って。まぁ私がこしらえるもんだから大した物はこしらえられないけども、うちでこしらえる惣菜ぐらいなら何とか」
「そげなものが、商売になるんだろうか?」
「いや、料理屋でこしらえるようなものは無理ですけども、船の衆相手だったら何とか……。長い間船に乗って暮らしてると、うちでこしらえる惣菜といってもなかなか食べられないと思うんですよね。だから懐かしがられるようなものを」
「んだのう……。船の衆なら掛け売りはねえ。日銭が入る商売はいいがも知れねえげんど」
「いやそれに、仕入れ値も安く済みます。品物並べて寝かせておくような商売じゃないから、元手もあんまり沢山かからない。ただ、ここら辺をこざっぱりして、あと食卓とか器とかは買わなくちゃいけないんですけど」
「器なら、うちの蔵に要らないのがいっぱい並んでるからそれ使ったらええ。どうせ安い料理作るんだ。上等なものは要らねえだろ?」
「お加代様……」
「その代わり忙しいぞ!」
「大丈夫です! 自分の体使っていいことだったら何だって! それで済むんだったらどんなことだって! ただ、そんなに忙しいほどお客様が来て下さるかどうか分からないけど、フフフ」
「おしんにその覚悟があるんだったら、やってみたらええ。明日がら大工入れで、奥では寝られるようにもして」
「フフッ、夢みでえな話だぁ!」
「んだども、その前に一度里さ帰っておっ母様と話し合ってくるんだな。おしん一人で決めてしまっては」
「母なら、分かってくれます」
「そうはいかねえだろ?」
「……帰ったら、ここに戻ってこれないような気がして……。母も、ほんとは雄や私と一緒に暮らしたいんですよね。母の顔見たら、母だけ置いて来れないような気がします。すぐ帰るつもりだったから、出てもこられたんです」
「おしん……」
「母には申し訳ないけど、このまま」
加代はうなずいた。

野良仕事から焦るように戻ってくるふじ。期待するように家の戸を開けて中を見回し、それから落胆する。ふらふらとまた外へ出てきたふじに、庄治が外の水場で足を洗いながら話しかける。
「まだ帰ってきてねえのがおしんは……。初七日済むまで加賀屋にいるってごとだけんど、もうとっくに終わったはずだべ。のんきなもんだ、こっちのこと忘れてしまってよ」
「お前に迷惑かけている訳じゃあるめえし、文句言われることはねえ」
「俺母ちゃんが寂しいんじゃねえがと思ってよぉ」
「散々お世話になったんだ。色々と用もあるし、知らん顔して帰ってくる訳にはいがねえべ。んでもそろそろ帰ってくるべ」
「母ちゃん、一人の間俺達と一緒に飯食え。一人で食ったってうまぐねえべよ。なっ」

そこへ、とらが家から出てきて手紙を差し出した。
「おっ母さん、おしんさんからだ」
ふじはひったくるように手紙を取り懐にしまう。その態度を見てとらは不機嫌な顔を隠さず、庄治の顔を見た。

りきが来てふじに手紙を読んでやっている。
「こちらにいても大してお役にも立ちませんでしたが、無事に大奥様の初七日も済みすぐにも帰るつもりでおりましたところ、お加代様が酒田で商売をやらないかという突然のお話で……」
そこで言葉を切り、便箋をめくるりき。
「それで? 『商売する』って書いてあんのが? 一体酒田で何があったんだべ」
「おふじさん。おしんちゃん当分は帰ってこねえようだなぁ。加賀屋さんの世話で、飯屋することになったんだと。お加代様がおしんちゃんの事情ば察して心配して下さったんだど」

「んだら、雄ももう、ここさは……」
「雄坊のごども考えて、そうすることにしたんだそうだ。自分の店なら雄坊ば手元に置いて働げるしな」
ふじは寂しさに満ちた顔をりきからそらす。
「……自分さえいながったら、オレが庄治夫婦とうまぐいくと思ったんだべ」
「んだべなぁ。こごさいたって、おしんちゃんやっぱり出戻った余計者だがらな。おふじさんがなんぼ守ってやるべと思っだって、肩身の狭い思いに変わりはねえ。おふじさんがかばおうとすればするほど、おしんちゃんなおのごど、つらがったんねえがぁ……。それにしたって店ば始める前に一度ぐれえ帰ってきたって。なあ」

「おしんらしいな……。帰ってきたってまた酒田さ行ってしまうんだったら、オレだって会わねえ方がええ。わざわざつらい別れするために帰ってくるなんて沢山だ」
「おふじさん……」
「このままでええ。酒田だったら、またいつだって会えるがら。会える時もあるべよ」
「『店がうまくいったら、母ちゃん迎えに来る』って。『一緒に暮らせる日楽しみに、一生懸命働く』って書いてある」
「……オレどいたって、何にもしてやれねえがらな」

「台所から店が見えるようにして下さい。お客様の顔見ながら料理できるように。あんまりきれいにしなくていいですから」
「へ、へえ」
酒田で加賀屋から借りる店の建物の改装が始まった。おしんが大工に指示するのを聞いて加代が口を挟む。
「銭のことは心配ねえって!」
「どうせ一膳飯屋です。みんな気軽に入れるように。あんまり立派だと入りにくいもんだから、フフフ! お加代様、ちょっとちょっと」
おしんは加代を中の方へ招き入れ、改装の構想を話す。

おしんにとっては何度目かの商売であった。成功するかしないかは分からないが、新しい商売と取り組む度に、おしんは商いというものの勘と腕とを磨いていくことになった。
(第157話 おわり)

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