<登場人物・キャスト>
語り手:奈良岡朋子/おしん:田中裕子/ふじ:泉ピン子/みの:小林千登勢/加代:東てる美/清太郎:石田太郎/りき:渡辺富美子/恒子:観世葉子/庄治:吉岡祐一/とら:渡辺えり子/女中:中村綾子/雄:山野礼央/清:高森和子/くに:長岡輝子

<あらすじ>
おしんが雄を連れて帰ってきた。
「帰ったのか、遅がったなぁ」
ふじがいろりで食事の支度をしている。
「いやー、今日地主さんのとこで建て前あったからみんなにも振る舞いあって、後片付け最後まで手伝ってたんだ」
「疲れたべ?」
「田んぼや畑するよりよっぽど気ぃ遣うわ。その代わり、これお祝いのお餅頂いた。ご祝儀も1円も頂いて」
「それは持ってろ。母ちゃんお前からもらったのまだあるがら」
「いや、ええって。何か要る物あったら買ってもらうから」
そう言われてふじは1円をありがたく懐に入れた。

「明日から田んぼだ。今日行った地主様のとこで頼まれた」
「うちもそろそろだなあ」
「あーだったら、うちの田んぼ手伝わねえとな」
「ええって。毎年オレと庄治ととらで間に合わせてきたんだ。お前は庄治に何にもしてもらってねえ。自分で稼いで自分で食ってる。手伝う義理はねえべ。他行きゃ50銭も銭もらえるんだ。ただ働きすることはねえ」
帰ってきてから雄は「ねえこれ何だ?」などとしきりに聞いていたが、おしんもふじも構わず話しているので、自分からかごに入っていた。その雄にふじは話しかける。
「さあ、雄、そろそろ飯にするか。んでも雄連れて田植えは大変だな」

「いやあ、もう慣れた。ひもで木にくくりつけててもこの子泣かないし、私の姿さえ見えてたらもう安心して遊んでる。分かってんのかなあ、母親が働いてるってことを」
「雄は、聞き分けのええおぼこだなぁ」
ふじはそう話しかけて雄の頭をなでてやる。
「んでも、きついんでねえが? 疲れてるみたいだぞ。つらがったら休めよ。取り返しのつかねえごとになったら大変だがらな」
「大丈夫だ、まだ若いんだもん。でもこんな暮らしがいつまで続くんだか。ただ食べるためにだけ働いて、これから先どうなるんだか……」



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「はあ、山形さい帰ったて言うてきたけん、いよいよ竜三のことは諦めたて思うとったばってん、まだこがんしつこか手紙ばよこして、性懲りもなしに。どこまでしつこかおなごやろか!」
佐賀の田倉(たのくら)家。清(きよ)がいつものようにおしんからの竜三宛の手紙を開封し、恒子の前で破っている。
「竜三はそろそろ諦めかけよっけ、口ん裂けたっちゃおしんの手紙のことは言うぎでけんよ。竜三のためじゃっけんね。この前見合いばした学校の先生のことも、まんざらじゃなかごた。うまくいってくるっぎ、あたいは肩の荷の下りっとばってん。お父さんのいくら反対しんさったっちゃ、竜三さえその気になってくるっぎお父さんてん何も文句は言えんたいね。学校の先生しとっくらいの娘ない頭もよかろうし、田倉の家の嫁と言うても恥ずかしゅうはなか」

「うちさい来んさっぎ、どうせ野良仕事ばしんさっとでしょうもん。学問てん要らんじゃなかですか」
「そん人の来てくるっない、野良仕事てんさすっもんね! 早う子供ば産んでもろうて、よか孫ば育ててもらうさい。ハハハハ」
清は上機嫌で部屋を出ていった。手紙の紙くずは畳の上に置かれたままであった。恒子はそれを拾ってじっと見る。

翌朝早くおしんが出かけようとすると、庄治に声をかけられた。
「おしん、今日からうちも田植えだ。今年はお前がいてくれっから助かるな」
「すまねえ、私頼まれたところあって……」
「おしん!」
「約束してしまったんだ」
「ほっだなバカな話があるか! 猫の手も借りてえぐらい忙しい時に、うちの田植えしねえで他のうちの田植えするって言うのか」
ふじも家から出てきた。
「うちで田植えしたって一銭にもならねえ。それともお前が、おしんが手伝ったら他で手伝ったのと同じ銭くれるって言うのか?」
「母ちゃん……」
「早ぐ行け、遅くなるがら」

「よくもそだな冷てえこどが言えるなあ。今年はうちは赤ん坊いるがら、おとらに田植えは無理だ。おしんば当てにしてだのに。なっ、雄はとらが預かるって言ってるから」
「自分勝手なこと言ったって駄目だ。冷てえのはどっちだ? 血分けて帰ってきた妹を、ろくな面倒も見ねえで。おしんはな、自分で稼いで自分で食ってるんだ。今日行がねえで信用なくしてみろ、仕事来ねえでねえか。それともお前が食わせんのが? おとらに田植えさせろ。乳飲み子抱えててもできねえはずはねえ。母ちゃんは何べんもしてきたんだがらな。誰が食う米でもねえお前達が食う米でねえが。おしんば当てにするのは大間違いだ」

庄治は怒りに震えた顔をし、それでも家へ戻ってとらに怒鳴った。
「とら! 田植えの支度しろ! 何グズグズしてんだあ!」
「なしてオラが行かんなんねえのや!」
赤ん坊が泣いている。
「いいから早くしろ!」
「やんだ! おしんさんがいるでねえが!」
怒鳴り合う夫婦のやり取りを見てふじがつぶやく。
「……今日は田植えになんねえかも知れねえな。おとらも負けてねえがら」
「母ちゃん、やっぱりうちの田植え手伝う」
「ええって」
「だって私のことでケンカされたんでは、もういづらくていられねえ」

「いやー、いがった! もう田んぼさ出はったかと思ってよ」
そう言って走ってきたのはりきである。
「昨日酒田さ行ったら、加賀屋の大奥様が倒れなさったって、もう大騒ぎなんだ。いやオレおしんちゃんが山形さ帰ってきてること、加賀屋さんさまた心配かけると思って話してねえんだげんど、おしんちゃんは大奥様に大恩あるし、できたら見舞えぐらい……。多分もう長ぐねえって。いや、おしんちゃんにも都合ばあるべがら、無理にどは言わねえげんど」
「伺います。私だって大奥様にお会いしたい」
「おしん……」
「今日は田植えの約束があるから行けねえけど、明日には必ず!」
「んだな。親よりも大事なお人だ。親よりもめんこがってもらった。どだなことしたって行がねど」

赤ん坊はずっと泣いていたが、その声が大きくなったと思ったらとらが負ぶって出てきた。貞吉も連れて、田植えへ向かう庄治の後をついていく。
「姉さん、すまねえなっす」
おしんはそう挨拶したが、とらは一瞥しただけで何も言わない。
「何グズグズしてんだ! 日暮れっぞ」
庄治の怒鳴り声に、ふじも後へついて歩き出した。
「早くしろ!」

その夜、おしんは酒田へ行く支度をしていた。
「ほんてん汽車賃はあるのが?」
「露天商をしてた時に貯めたお金が、いざって時のために残してある。ほんとは健さんに返さなくちゃいけないんだけども、雄の餞別にってくれたんだ」
「それならええげんど、母ちゃん米も自由にならねえがら、お前に一銭の銭も持だせてやれねえで……。こらえてけろ」
「そんなもんもらおうと思ってねえって! 母ちゃん、それよりも私がいない間、兄ちゃんとちゃんと仲良くしないと駄目だよ。一人だったら寂しいし、何があるか分かんないんだから」

「心配要らねえって。お前はすぐ出てってすぐ帰ってくるだげでねえが。雄は置いていけ。オレが面倒見てやるから」
「母ちゃんだって田んぼまだ残ってるのに、邪魔になるだけだ」
「ほだなごとぉ。オレが何人のおぼこ育てたと思ってるんだ」
「でも、加賀屋の皆さんにも雄の顔見て頂きたいし」
「お前が雄連れていきたいんなら、オレ何にも言わねえ」
奥の部屋で寝ている雄の枕元に行って声をかける。
「雄、早く帰ってこい。めんこい顔して寝でぇ……」

翌朝おしんが家を出ると、庭にいたとらが嫌味を言う。
「ええ身分だなあおしんさんは。人が一番忙しい時に好ぎなとごさ行げてよ!」
「何言ってる、おしんは物見遊山に行くんでねえ」
「勝手して、すまねえなっす」
「気にすることねえって。ほれ」
ふじが荷物を手渡してくれる。
「気を付けてな」
見送るふじをおしんは一度振り返った。ふじは寂しくてたまらないのをこらえるような顔で見送っている。

酒田の加賀屋。
おしんは勝手口から入り女中に声をかけた。
「ごめんください。お加代様にお会いしたいんですが」
「あんた誰?」
「私、田倉しんと申します」
「田倉?」
「はい。『おしんが来た』とお加代様に伝えてもらえますか」
そこへ折よく加代が通りかかる。
「おしん?」
「ご無沙汰致しました」
「あー、よぐ来たごと!」
「大奥様のお加減が悪いって聞いたもんで……」
「おばあちゃんのこと聞いて来てくれだのか?」
「大奥様は?」
「……今度はもう、みんなも諦めてんだ。せっかく来てくれたのに、おしんの顔も分かるかどうか」

奥の部屋へ通される。
「おしんが来てくれたんだ」
「何? おしん?」
おしんが顔を見せるとみのと清太郎は懐かしそうな顔をした。
「お前、佐賀からわざわざ来てくれたのか?」
「誰が知らせたんだ?」
「おりきさんから聞いて、母が……」
「それにしても、早がったのう」
清太郎の言葉に複雑な顔をするおしんと加代。加代が話題をそらす。
「そげなごとはどうでもええんだ。おばあちゃん、おしんが来てくれだんだよ。おばあちゃん、ほら、おしんだ! おばあちゃん!」

清太郎「駄目だ。ずーっと眠り続けてて。まだ正気さ戻らねえんだ」
加代「おばあちゃん、おしんが来てくれたんだよ。おばあちゃん」
おしん「大奥様、おしんです」
加代「おばあちゃん……おばあちゃんの一番好きなおしんが来てくれたっていうのに」
みの「仕方ねえんだ。お医者様は、できるだけのことはして下さってるんだ。んでも心臓の悪いのはどうしようもねえんだそうだ。このままもしものことあっても、おばあちゃんは大往生だ」

くには、おしんにとって俊作兄ちゃんとともに大恩人であり、人生の師であった。もはや物言わぬくにを見つめながら、おしんはもう一度、せめてもう一度だけくにに礼を言いたかった。
(第155話 おわり)

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